​経歴

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有光 威志  先生
​(ありみつ たけし)

 

2002年 慶應義塾大学医学部 卒業

      慶應義塾大学医学部小児科学教室 研修医

2004年 慶應義塾大学医学部小児科学教室 専修医

2006年 慶應義塾大学大学院 医学研究科博士課程 入学

2010年 慶應義塾大学大学院 医学研究科博士課程 卒業

      慶應義塾大学医学部小児科学教室 助教

2016年 日本周産期・新生児医学会 社会保険委員会幹事

      日本新生児成育医学会 社会保険委員会委員

2020年 European foundation for the care of newborn infants, a Chair Committee                     member of global alliance for newborn care

      日本NICU家族会機構 代表理事

 

2021年 European foundation for the care of newborn infants, a Chair Committee 

              member of global alliance for newborn care

      日本NICU家族会機構 代表理事

      日本新生児成育医学会 代議員

      日本周産期精神保健研究会 理事

      日本新生児看護学会「NICU に入院している新生児の痛みのケアガイドライン」委員会委員

医師を志す

 

ー医師を目指した理由は何でしたか?

 私が医者になろうと思ったのは、人の役に立つ仕事を将来したいと思ったからです。色々な役立ち方があると思うのですが、医師になることが自分のイメージとして一番合いました。

部活中心の学生時代、

実習で出会った患者さんの想い

 

ー医学部に入学して,どのような学生生活を送っていましたか?

 学生時代は部活中心の生活をしていました。ただ、解剖学・生理学・生化学などを医者になってから勉強しなおしたので、学生のうちにもっと勉強していればよかった。学生時代のハイライトとしては、空手部の主将になったときに10年ぶりに関東医科歯科リーグの団体戦で準優勝したことですね。

 

ー有光先生にとって空手はどのような競技でしたか?

 空手は大学になってから始めました。地道な努力が必ず報われる競技なので、やりがいがありました。「組手」の方が得意で、対戦相手を俯瞰する重要性を学びました。昇段審査に必要な「形」も練習していて、積み重ねが形となって現れる「形」も好きでした。空手部で培ったバランス感覚や忍耐力は、診療において患者さんの全体像を捉えながら各臓器を治療する新生児医療に活かされているかもしれないですね。

 

ー勉強や実習など,どのような思い出がありますか?

 病棟実習が始まって、患者さんと実際に接するようになり「患者さんのためにもっと勉強しよう」という気持ちが強くなりました。「将来患者さんの治療に関わるとはどういうことなのか」ということを考える時間が増えました。治療方法のない疾患を発症し、症状が進行している余命の限られたご婦人が「私を診察することで将来の医療が発展するなら役立ててください」と言ってくださったことは今でも強く覚えています。もっと早く病棟実習をしたかったと思いました。

 

ー学生時代にやっておいたほうがいいことは何がありますか?

 勉強をした方がいいです。専門以外にも基礎的な知識があると、働き始めてから医者としての幅が広がります。さらに、進む分野が決まっていれば、その基礎的な部分は勉強した方がいいです。勉強を始める時期はいつからでもよいと思います。医者になってから勉強と仕事の両立は大変なので、時間を効率的に使えるときにやっておくことをお勧めします。それから、医者になってから自由な時間が減る人が多いと思うので、部活やアルバイト・趣味など学生時代にしかできないことをやっておいた方がいいですよ!

Today is the first day of the rest of your life. 当時空手部の部長をしてくださった医化学元教授の石村 巽先生は、ご退任後に渡米されました。その際に教えてくださった私が大好きな言葉です。

新生児医療への道

​ー生まれつきの病気を医療で支えたいー

 

ー医学部に入学する前と比べて、将来のビジョンに変化はありましたか?

 医学部に入学する前には「もし生まれつきの病気を治せたら、その人の可能性が広がり、もっと選択肢の多い人生を歩けるのではないか。そういう仕事に関わりたい」と思っていました。医学部に入ってからは基礎医学やそれぞれの診療科の魅力を知り、将来のビジョンについて幅広く考えるようになりました。病棟実習が始まってから再度入学当初の気持ちが大きくなり、小児・周産期医療に関わる仕事をしようと思い始めました。

 

ー入学前から小児の新生児医療に携わりたいという思いが強かったのですか?

 新生児医療に限らず、生まれつきのハンディキャップや病気を医療で支えることができたら素晴らしいことではないかと思っていました。そのために基礎医学や小児・周産期医療の発展に携わりたいという思いはありました。

 

ー学生の時に他に迷っていた科はありますか?

 どの診療科もそれぞれとても重要で大切だと思いました。精神科から外科まで迷いましたね。生まれつきの病気を治すという観点からは、胎児治療、妊娠や分娩に関わる診療科にはとても関心がありました。胎児治療の進歩により、いくつかの病気は生まれる前に治るようになってきて、今後さらに発展する領域だと思います。でも、まだまだ胎児治療では治らない病気も多くて、自分が最前線の臨床医として働ける期間では、生まれた後の医療を行う方が今を生きる多くの方々に役立ち、自分には合っていると思いました。また、部活の先輩から医者が少なく困っている患者さんが多い科を選ぶこともすすめられ、それが私にとっては小児科でした。そのときはまだ新生児医療に進むとは決めていませんでしたが、今振り返ると自分が思い描いていたのは新生児医療だったのかもしれません。

 

ー実際に新生児医療に携わっている医療者はどのくらいいますか?

 新生児医療の専門医は日本には約1,000名しかいません。日本新生児成育医学会の会員数は約3,000人で、日本小児科学会の会員数の約15%程度です。NICU(新生児集中治療室)15床あたり10名の常勤医+若手の医師が必要だと考えられていますが、全国約7割のNICUで医師が不足していると報告されています。(小児科・産科の専門医は少しずつ増えていますが、新生児の専門医は十分に増えていません。)集中治療が必要な新生児を診るのに必要な専門医の約1/2しかいないという報告もあります。日本では毎年約100万人の新生児が生まれ、そのうちの10%は生まれてすぐに医療者の対応が必要になると言われており、新生児の専門医の充足が求められています。

 

ーなぜ新生児医療の専門医は不足しているのでしょうか?

 さまざまな要因があります。新生児医療の発展によって以前よりも救命できる患者さんが増えて、それらの患者さんが入院するためのNICU病床数が増えたこと、勤務条件が合わず応募する医師がいないこと、医療施設によっては新生児の専門医を雇用する枠を増やせないこと、などが挙げられます。各医療施設の新生児の専門医の人数や年齢には、地域差や施設間格差があることもわかっています。

多忙な研修医時代

​寝る間も惜しんで勉強した

 

ー当時の研修はどのような感じだったのでしょうか?

 

ー医師になってから印象的だったエピソードはありますか?

 研修医時代はすごく忙しかったです。お給料も安く、休日もほとんどありませんでした。1年間働き続けて、東京から地方の病院に異動する日は、昼まで働いて、午後に他県に移動して、翌朝からその病院で働きました。人によっては、家具を持っておらず、段ボールをタンス代わりに使って生活し、その段ボールを持ってまた引っ越す、という生活を送っていたそうです。

 学生時代に部活ばかりしていたので、研修医になってからは寝る間を惜しんで勉強しました。昨日勉強したことが今日患者さんの治療に役立ったという実感も日々あり、すごく充実した研修医生活でした。

 当時の私の指導医が「自分も何でも知っているわけではない。先生(私)が自分の知らない知識を勉強したら、先生の方がその部分については自分より良い医者ということだから、一生懸命勉強してほしい」とおっしゃってくれたこと、別の指導医が、私が多くの文献を参考に新しい治療方法を提案したら「それは自分は知らなかった。次はそれを採用して治療してみよう」と緻密な議論のうえ取り入れてくれたこと、その他にも、仕事に対するモチベーションについて「情熱はロウソクの火と同じで、いつか消えてしまうから燃えているうちに掴むんだ」という言葉を伺ったことなど印象的だったことはたくさんありました。

世界的な快挙の裏で

​チームの奮闘

 

ー2019年に当時世界最小の268gの男の子の赤ちゃんが大きな合併症なく慶應義塾大学病院小児科から退院された世界的なニュースがありましたが、その当時何か気を付けていたことや大切にされていたことはありましたか?

 チームでの連携を大事にしていました。新生児医療は24時間、週7日、患者さんから目を離すことができません。特にチーム医療が求められる分野の一つです。一般的に、医療においては血液検査で客観的な情報を集めて診断したり、網羅的な治療を行ったりする場合も多いと思います。しかし、とても小さく生まれた赤ちゃんは僅かな採血でも重度の貧血になり、不必要な治療が大きな合併症を引き起こします。そのため、詳細な病状を言葉で説明できない新生児に対して検査に頼らずバイタルサインや臨床症状から診断をする技術と、針孔に糸を通すように本当に必要な治療だけを行うために深く病態生理を考えエビデンスを応用することが必要です。このように複雑な病態把握と繊細な治療方針をチームで共有することはとても困難でした。このような高度な技術や思考は、日頃の教授回診での丁寧なディスカッションによって私たちに培われました。268gの男の子の赤ちゃんが元気に退院できたのは、小児科、産科を始めとして慶應義塾大学病院が一丸となって診療に取り組んできた結果と言えます。もう一つ大切にしていたことは、NICUで家族の関わりを増やすことです。とても小さく生まれた赤ちゃんは半年くらいNICUに入院することになり、その間家族と隔離されます。本来、赤ちゃんはお母さんのお腹の中にいて、お母さんの子宮を触ったり声を聞いたり、お母さんの周りにいる人の声を聞いたり触られたりしながら育ちます。胎児はこのような双方向性のコミュニケーションにより発達が促されるため、NICUで家族が分離されることは良くない影響があるのです。そのため、今では多くのNICUでも家族が一緒に過ごせる時間を増やすことを心がけるようになってきています。特に欧米の医療先進国では、24時間毎日、親・祖父母・兄弟・友達がいつ面会にきてもいいような仕組みになっており、抱っこも自由にできるようなシステムが世界標準の医療になってきています。慶應病院では、まだ面会時間も限られており、子どもとの触れ合いも限定的ではありますが、スタッフに協力してもらい、少なくとも現段階で慶應病院ができる範囲で家族との関わり合いを増やしました。

 

ー今、新生児医療はどこまで進んでいるのでしょうか?

 日本では在胎26週または出生体重700gの新生児の生存率は約90%で世界トップクラスです。しかし、体重が300g未満の新生児では生存率が著しく低下します。2019年2月当時のアイオワ大学のデータベース The Tiniest Babies(https://webapps1.healthcare.uiowa.edu/TiniestBabies/index.aspx)によると、過去に世界で出生体重 300 グラム未満で生存退院した児は 23 人のみで、そのうち男児は 4 人に過ぎませんでした。つまり、男児の救命は女児の約 6 倍難しいと言えます。その理由はまだ推測の域を出ませんが、男児では肺の成熟が遅いことや酸化ストレスに弱いことが一因と考えられます。海外では、以前は医療先進国であっても妊娠週数28週未満の新生児の治療はなされなかった時期がありましたが、近年では在胎24週かつ出生体重400g以上の場合は治療が行われることが多いようです。在胎週数が早い程、出生体重が小さい程、新生児の生存率や長期予後に大きな影響を与えます。生存限界の新生児の治療については、医療、文化、経済、地理、倫理などさまざまな観点から考える必要があります。先程お話しした268gの男児の合併症のない退院のようなエビデンスの積み重ねが、今後の医療の発展につながり、将来これらの課題に役立つことを願っています。

​“あたたかい心”を伝える研究

 

ー現在行われている研究について教えてください。

 複数の活動に取り組んでいます。その一つには、文学部との共同研究で新生児の脳機能研究があります。例えば、私たちの研究から「赤ちゃんはお母さんの声を行くことで愛着が形成される」ことが分かりました。詳しく説明すると、生まれたばかりの新生児に自分の母親の声と、他児の母親の声を聞かせると脳の反応が全く違うことがわかりました。前者は愛着や言語に関わる脳内ネットワークが活性化されましたが、後者では活性化しませんでした。このように、生まれたばかりの赤ちゃんは、お母さんの声を聞くとそれに対して親しみを感じ、その声を聴いて言語学習をしていると考えられます。これを深く掘り下げると、生まれたばかりの時にこのような脳反応を示すということは、胎児は子宮内で母親の声を聴き母親への愛着を形成しているということを示唆します。現在行っている共同研究は、文学部の先生がご専門の内容と、医学部小児科が担当している新生児医療や子どもの発達に関わることをつなぐような研究です。このような研究を行うことで、私たちの持つ“あたたかい心”を小児科医や患者さんのご家族に伝えたいと思っています。

NICUの赤ちゃんの家族を支えるために​

​全国の家族会をつなげる国内初の試み

 社会的な活動も行っています。私たちはとても小さな新生児を大きな合併症なく助けることはできましたが、病気を治療するだけが医者の仕事ではありません。NICUで家族の関わりを増やし家族の関係性を深める努力はしましたが、ご家族をどれだけ支えられたのか、どこまで気持ちを理解できていたのかわからない部分もあります。また、退院後に小さく生まれた子どもを養育している家族が困っていることに対して、外来診療では支援しきれないこともありました。このように、どうしても私たちの医療には限界があります。私は小児科医という立場から、医療以外でも子どもたちとご家族を応援し、社会貢献できることは無いかずっと考えていました。そのような中で、海外の早産児家族会の方々と知り合い、海外では国単位での早産児の患者家族会が家族支援として家族同士のピア・サポートを行っており、その有用性が示されていることを知りました。日本でもいくつかの早産児の患者家族会はありますが、それらをつなぐ全国ネットワークはなく、家族支援には改善の余地があると考えられます。そこで、私は国内外の家族会の方々と協力して日本においても家族同士のピア・サポート広め、家族支援を充実させるために患者家族会の全国ネットワーク(日本NICU家族会機構)を設立しました。今後このネットワークが社会の発展に役立つことを願っています。

 

ー海外の家族会(EFCNIなど)との関わりを通じて、日本との違い、日本の強みや弱みについて感じることはありましたか?

 ヨーロッパNICU家族会(EFCNI)など海外の早産児の患者家族会は歴史があり、それぞれの環境に合わせて活発に家族支援を行っています。海外の早産児のご家族や医師、企業や国際機関の方、政治家などのお話を伺って感じたことは二つあります。一つは、日本の新生児医療は治療成績が良いため、海外の方々が強い関心を持っているということ。268g男児の生存退院のニュースをBBCやCNNにも取り上げてもらっていたことも影響したと思います。ただ、やはり、ピア・サポートなどの家族支援に関しては、日本は遅れている部分があると感じました。2020年から私はヨーロッパNICU家族会(EFCNI)の国際委員の一人になったので、そこでの経験を日本でも活かしたいと思います。海外のさまざまな立場の方々との関わりを通じて思ったことは、小さい赤ちゃんの命を救いたい、その家族を支えたい」という気持ちは世界共通だということです。

 

ー日本の家族会をどのような形にしていきたいですか?また、進める上でハードルになっていることはありますか?

 日本でもいくつかの家族会が活発に活動をしています。しかし、それぞれの地域の家族会の活動が小さいままでは、課題が見つかりにくく、社会に発信する声も大きくなりにくいことが懸念されます。そのため、それぞれの家族会の人たちと協働して課題を見つけやすくしたり、それぞれの人たちが足りないところを補い合ったり、良いところを真似し取り入れたり、皆でまとまることで社会に対して発信していけるようになればいいなと思っています。それぞれの家族会にはそれぞれ異なる考えもありますが、やはり「小さい赤ちゃんの命を救いたい、その家族を支えたい」という気持ちは同じです。そういった思いを聞いて、今皆で活動していく道を考えています。立場や境遇は違えど、皆がお互いのことを考えて、思いやりをもって、支え合うことで、より良い医療・社会が発展していくのではないかと思っています。

​慶應の新生児科医として

 

ー慶應の中で新生児医療をやっていてよかったと思うエピソードはありますか?

 教育熱心で、人文科学を含めた学際的な研究を遂行できる恵まれた環境があり、また、倫理的な面についても真摯に取り組んでいるので、医者として勉強する・治療するだけに留まらず、常に患者さんの背景にある家族や社会について考えられるようになりました。また、教授回診では、新生児医療において勉強になることが多くあります。というのも、例えば先程お話ししたように、成人では普通にやれる検査が新生児にとっては侵襲が高くなってしまうので、新生児に対してはやらなければやらない方がいい。それをminimal handlingと言います。それを実践するためには検査をせずに臨床症状から病態生理を考え、診断治療しなければなりません。教授回診では、検査結果を含めずに診断治療根拠を説明することを求められることが多く、新生児診療に求められる技術が鍛えられ非常に勉強になります。慶應義塾大学病院は2019年の268g男児だけでなく、妊娠 23 週 289gで出生した女児の赤ちゃん(1999 年)や、妊娠 25 週 265gで出生した女児の赤ちゃん(2007 年、当時世界で 2 番目に小さい赤ちゃん)を元気に退院させた実績があります。このような治療困難な新生児が大きく成長していく姿を見ると、慶應の中で新生児医療をやっていてよかったと思います。

-慶應で小児科を目指す人へのメッセージはありますか?

 慶應の強みとして、他診療科との連携が強く、色々な専門分野があり、1人の患者さんに対して高いレベルで多角的な視点から集学的な診療を行っています。グローバルな視点、広い視点を持っていること、医療にとどまらず人文科学的な面に触れる機会もあることが特徴です。

​今後のVision

 日々学び、今日よりも明日はもっと良い医療を患者さんに提供したいと思っています。慶應義塾大学医学部小児科学教室の高橋孝雄教授をはじめ多くの素晴らしい先生方から教えて頂いた世界記録になるような小さな赤ちゃんの命を救う技術を後輩に伝える共に、海外に情報を発信します。また、臨床研究の発展と家族支援の充実にも取り組みます。これらの活動を慶應から外に発信し、日本と世界の新生児医療を通して、社会貢献したいと考えています。